コラム集

   
  第2回ナレッジ・マネジメントとは何か(「医薬経済」03年12月1日号)
   
   

◆SSTプロジェクト
 「ナレッジ・マネジメント」という言葉をはじめて実感したのは、いまから5年前のことである。
当時、私は日本ロシュの「SSTプロジェクト」事務局長であった。SSTとは「スーパー・スキル・トランスファー」の頭文字をとったもので、文字通り「名人芸の移植」プロジェクトである。
 SSTプロジェクトは、社長の繁田(当時)のぜいたく極まりない命令にて誕生した。
「短期間で、現状の生産性を二桁アップしてもらいたい。しかも効果が持続する方法で」
 私たちが真っ先に考えたのは、集中的な研修や上司の同行強化であった。
前者は若干の刺激を与えるが、持続的な効果は期待できない。後者は日常業務が多忙過ぎて、MRのレベルを上げることまでは期待できない。
考えた末にたどり着いたのが、全国で最も優秀なMRによる直接指導であった。
 優秀MRのスキルやノウハウを、平均的なMRに移植する。SSTに関する私たちのイメージは、徒弟制度のようなものであった。
社長の意識には、「ナレッジ・マネジメント」があった。しかし私たちは、「暗黙知」も「形式知」も理解できなかった。
 SSTプロジェクトを導入して半年後、私たちはナレッジ・マネジメントの権威・野中郁次郎教授の取材を受けた。社長をはじめ、私たちプロジェクトメンバーが説明にあたった。三時間にもおよぶ取材であった。 
「SSTは高質の暗黙知に挑戦した、世界的にみても画期的な営業ナレッジ・マネジメントです」
 取材を終えたとき、野中教授はそう断言した。私がナレッジ・マネジメントにのめりこんだのは、このときからだった。私たちの実践が、学問の世界と合致している。驚きでもあり、多少の面映さもあった。
 「暗黙知」については、次回以降で詳しく説明したい。ここではスキルやノウハウなどのように、言葉や文字にしにくい「知」と理解しておいてほしい。
対極にある知を、「形式知」という。データーベースやマニュアルなどが代表格である。

◆「日本昔話」のなかのナレッジ・マネジメント
 だれもが知っているフレーズがある。講演会などに招かれて、「これがナレッジ・マネジメントなのだよ」というと爆笑が起こる。ほかにも面白いことをいっているのだが、この部分がいちばん受ける。ナレッジ・マネジメントと昔話。二つの対比が、新鮮なのだろう。
「昔あるところに、お爺さんとお婆さんが住んでいました。お爺さんは山へ芝刈りに行き、お婆さんは川へ洗濯に行きました。ノノめでたし、めでたし」
 これがなぜナレッジ・マネジメントなのか。説明したい。
 爺と婆は、「磁」と「場」の象徴である。「磁」は、知を集めるところ。「場」は、知を磨くところである。爺(磁)は、山へ芝刈りに行く。
山は元来、霊が集うところと言われてきた。爺は、そこへ芝刈りに行く。
芝刈りという行為は、「知」を収集することを意味する。
 婆(場)は川へ洗濯に行く。川は、霊が降臨する道筋といわれてきた。
婆は、そこへ洗濯に行く。洗濯という行為は、「知」を磨くことを意味する。
 いかがだろうか。いささかこじつけくさいが、日本昔話のはじまり部分は、ナレッジ・マネジメントそのものなのである。「知」は、生ものである。
 だから、毎日集めて、磨かなければならない。あなたの会社には、「磁」と「場」があるだろうか。そして、爺と婆は、存在しているだろうか。
 本紙の連載では、ナレッジ・マネジメントにちなんだ楽しい話題を数多く提供したい。どうか笑いながら、おつきあいいただきたいと思う。

◆「リーダーシップ型」にシフトせよ
 リーダーを大別すると、「リーダーシップ型」と「マネジメント型」になろう。もちろん、リーダーには、両方の素養が必要である。
ただし混迷の時代には、より強いリーダーシップが求められる。あなたは、どちらのタイプのリーダーだろうか。 
 二つのタイプを比較してみたい(下表)。自分に該当すると思う方に、レ点を入れていただきたい。断っておくが、私は「マネジメント型」を否定しているのではない。少し、「リーダーシップ型」にシフトせよと言いたいのである。

 本連載では読者であるあなたと、現実について考えながら進行したいと思う。あなたの意見や要望を取り入れ、極力わかりやすい「営業ナレッジ・マネジメント」を紹介させていただく。あなたは「リーダーシップ型」? それとも「マネジメント型」?
 多くの企業は「マネジメント型」を尊重する。したがって「リーダーシップ型」は、少数となるはずである。
組織論を考えるなら、当然の帰結だと思う。ひと昔前のコンサルタントは、組織やシステムに特化して企業に出入りしていた。私が展開する『ナレッジ・マネジメント』は、人にフォーカスを当てている。
 営業リーダーが変革すれば、部下であるMRのレベルは上がる。私はそのことを、日本ロシュ時代に実体験している。そして現在、いくつかの企業で営業リーダーの変革に取り組んでいる。
 半年を費やすロングランの研修であるが、賛同してくれる企業は多い。毎月1回のリアルの場での研修を6回。バーチャルの場(インターネットによるナレッジ・ポータル)では、毎日「読み、書き、考える」ことに関する課題をディスカッションする。
 バーチャルの場へ参加できない受講者は、リアルの場でも存在感を失う。半年後は、感性豊かな自頭で考えられるリーダーが誕生する。
 下表は、今後もひんぱんに出てくる。できればコピーを手帳にでもはさんで、次回からも参考にしていただきたい。

   

二つのリーダー・タイプ


リーダーシップ型
マネジメント型
仕事に関するスタンス
率先垂範
管理
中心となる仕事「場」
現場
オフイス
「知」の活用
暗黙知
形式知
部下指導の方法
個別
一律
部下に求めるもの
変革
秩序
部下同行の方法
指導的
営業的
部下との接し方
支援
指示
指導の目線
未来
現在
指導の背景
ベスト・プラクティス
自らの過去の経験
指導のスタンス
傾聴
命令
部下の評価
プロセス
アウトプット
会議の進め方
双方向
一方通行
コンピタンシーモデル活用
身の丈
全社的
部下コミュニケーション
面談
電話
自分自身への課題
自己革新
現状維持
多用する人称
きみ(二人称)
おれ(一人称)


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