コラム集

   
  第6回 MRのレベルアップに必要な「場」と「機会」(「医薬経済」04/02/15号)
   
   

◆情報や知識を現場で活かす

 企業はどのMRにも、均一な「インプット」(情報、知識、経費)を与えている。
にもかかわらず、「アウトプット」(売上、利益)は、天と地ほども違う。この原因は、「プロセス」(営業活動のブラックボックス)にある。
 前回のポイントを、レビューをしてみた。私はもうひとつ大切なことを書いている。それは「インプット」の部分である。優秀なMRと平均的なMRでは、この部分の活用にも格差がある。
 情報や知識を、現場でどう活かしているのか。製薬企業ほど、教育に時間をかけている業種はない。ただし、現場での活用まではフォローされていないのが現実であろう。
 営業所長時代に、驚いたことがある。製品知識テストは、いつも全国トップだったMRがいた。仕事もまじめだし、業績もそこそこだった。安心して任せられるMRだった。
 ある日、ふと疑問が生じた。既存品は伸ばしているのだが、新製品に広がりがないのだ。本人と同行してみた。基幹病院の外来には、20人ほどのMRが待っている。当のMRは新製品を採用してもらうために、毎週医師と面談しているとのことだった。
 診察室に招かれる。MRはパンフレットを提示し、早口で一方的に話しはじめる。グラフを指差し、科学的な根拠を訴求する。
医師は、相当疲れている。MRには余裕のかけらもない。白々とした空気が流れる。
 MRは、同じことを半年も続けていたとのこと。これでは、絶対に採用されないと思った。
医師ニーズを知らない。パンフレットを使わなければ、話ができない。話題に広がりがない。待っている他社MRのことを考え、短時間で説明しようとしている。
 せっかくの知識が、宝の持ち腐れになっている典型だった。このMRとは、徹底的な同行を繰り返した。新聞を読んで、話題を仕入れること。笑顔の練習をすること。そんなことも指導した。

◆第14回企業白書

 企業白書をご存知だろうか。現在は、第15回が発表されている。第14回企業白書(1999年2月18日)は、ちょうどSSTプロジェクトを実施していたときに発表された。
 グローバルな競争に打ち勝つためには、社内教育を変革しなければならない。前書きに続き、次のような提言がなされていた。
__平均的レベルアップのための社内教育ではなく、競争力向上に 資する戦略的な能力開発を行なう。個人のエンプロイヤビリティ向 上のための能力開発は自己責任で行ない、企業は「場」や「機会」 の提供という環境面で支援をする。(「第14回企業白書」より)
 SSTは、営業生産性向上を目指したプロジェクトであった。「短期間に、二ケタ以上の営業生産性を上げてほしい。しかも効果が持続する方法で」というのが、社長の要求であった。
「短期間」「二ケタアップ」「持続する効果」。私たちは3つのキーワドを前に頭を抱えた。
 社内キャンペーンは一過性の営業生産性向上であり、持続する効果は期待できない。営業リーダーの同行を強化する。この案も営業リーダーが多忙過ぎて、無理があった。徹底的な集合教育の実施。この案にも、速攻的な効果は望めない。
 私たちはMRに、トップクラスの仲間のスキルやノウハウ(暗黙知)を実体験させる「機会」を与えた。
 SSTメンバーの使命は、MRのレベルアップと営業環境の整備であった。「個人知」が「組織知」に変わる営業環境(場)作りもSSTメンバーには大切な仕事だったのである。
 
◆最初の「2」を活用する

 営業の世界には、「2・6・2の法則」が存在する。最初の「2」は優秀な2割であり、最後の「2」はぶらさがりと呼ばれる2割を示す。「6」は平均的なグループを指す。どんな営業組織も、こうした構成になっている。
 平均的な6割を、トップ2割の域まで引き上げられないか。社長のぜいたく極まりない要求に対して、おぼろげながら形が現れた。
 トップ2割の力を借りて、直接平均的なグループを指導してもらう。トップのスキルやノウハウ(暗黙知)が移植されるまで、徹底的な同行指導を実施する。
 既存の集合教育やおざなりな同行ではない、名人芸の完全移植。SSTプロジェクトは、MRに対してまさに「場」や「機会」を提供したのである。
 SSTメンバーを24名選抜する。選抜基準は次の通りであった。
・毎年の優秀営業者表彰式の常連であること
・だれもがマネの可能な普遍的なスキルを持っていること
・育児や介護などがなく、長期出張が可能なこと
 何しろ、約2年間にわたるプロジェクトである。SSTメンバーは、3ヶ月を1サイクルとして、それを5回実施する。1サイクルで同行するMRは、1SSTメンバーにつき2名。
 第1週はAさんと同行。翌週はBさん。そして第3週は、再びAさんとの同行となる。SSTメンバーは、Aさんに与えた課題の達成度を検証する。
 少しずつSSTメンバーの暗黙知が、MRに移転される。詳細は、拙著『暗黙知の共有化が売る力を伸ばす』(プレジデント社)をご覧いただきたい。

◆ 医局説明会の前夜

 知を磨き合う「場」は、どういうときに生まれるのだろうか。私はSSTプロジェクトのときに、いくつかの新たな「場」の誕生を実際に見ている。
日本ロシュは、直行直帰の制度を原則にしていた。ほとんどのMRは、仕事を終えてからオフイスへ戻ることはない。
 ある日、同行を終えたSSTメンバーがオフイスに立ち寄った。ひとりのMRが、壁にスライドを映してブツブツやっていた。聞いてみると、明日医局説明会を開催するとのこと。
 MRは、必死で「スライド・マニュアル」を暗記している最中だったのだ。
「よし、聞いてあげるから最初からやってごらん」とSST。
それから深夜までは、スライドの順番を変え、医師ニーズに添った内容に改める作業が続いた。
「医局説明会がある前日は、オフイスへ戻ってこよう。みんなで、最高の説明会になるように応援しよう」
 この日から、新たな「場」が誕生した。医局説明会の前夜はMRが集まり、みんなで最高の説明会を演出するようになったのである。
 A社の例を紹介したい。だれもが知っている、有名なメーカーである。複数の支店を担当する、営業企画部隊を新設した。支店ごとに存在する「知」を、共有させようというのが目的だった。
 ところが、なかなかうまく機能しなかった。システム作りばかりを考え、「知を交換する場」作りを失念していたのである。
 営業担当者が自由に語り合えるソファースペース。成功例を報じる張り紙の掲示。「場」が増えるにしたがい、「知の交換」が活発になったのは言うまでもない。

   


株式会社 コラボプラン
   
266-0033 千葉市緑区おゆみ野南2-4-15
TEL/FAX 043-300-1381